フルート2本とピアノのための「海」、「海II」

 

フルート2本とピアノのための「海II」は、パウエル・フルート・

ジャパンの委嘱作品として作曲し、2008年6月28日に同社のコンサート・ サロンで初演された作品である。2007年に同じ編成で作曲した「海」の 連作であると同時に、「海」がその発想の根源となっている。

 

中国の旅で敦煌から遠く離れた、嘗ては湖だったという場所に拡が っていた巨大な岩群を見たときの衝撃が、具体的な意味で具現化された 「海」という作品となった。限りなく地平に拡がるその岩群が、圧倒的で、 しかも神秘的な造形を成し、数年たった後でさえ、私の脳裏にはつい 昨日の出来事のように鮮明に記憶されている。あの印象を「湖」とする ことはできなかった。「海」でなけらればならなかった。07年作曲の 「海」は、数千年前の時空が、私を通して現在とつながっているという 奇妙な感覚に触発され生まれたように思う。これは感動していた私を 別の自分が客観的に捉えていた、ということになるのだろうか。

 

だが今回の作品「海II」では、私の存在は確かにその過去の湖の 中にあった。作曲の過程で、まだ湖だったころの豊富な水で潤っていた 湖のイメージが強く想像され、そして私は水面の揺れる波、そしてそれ を通してかすかに、おぼろげながらに浮かんで見える太陽を水中から 見上げている、というイメージが頻繁にわき上がってきていたからだ。 前作で使ったピアノのモチーフやその断片が時々そのままの形で顕れる。 将来2作が続けて演奏されたときに作品そのものがある種のヴァリエー ションであるようにしたかったからだ。

 

「海」の初演、そして今回の「海II」の初演で確信したことがある。 それは自分にとって標題音楽は必然であるということと、私の極めて 具体的なイメージを聴衆が共有してくれる、という感覚はリアルだ、 ということだ。

 

「海II」では、フルートの清水理恵、高野成之の両氏は、3度以上のトレ モロの連続(特にオクターブを超えたトレモロ)や長時間にわたって 休みなく吹き続けさせられる10連符の連続が織りなす音物語りなど、 とても難しいパッセージを積極的に取り組んでくれた。それにより、 特定のイメージがみごとに具現化され、自分の思う音楽がそこに顕れる 悦びを味あわせてくれた。ピアノの藤田雅氏は奇麗な音の持ち主だ。 彼の織りなす美しい響きに触発され、海のモチーフはいつも作られる。 音が生きていることの素晴らしさを体感できる瞬間でもある。そして 3人が集まって作られるアンサンブルは至福の時と感動を与えてくれる。 私の追求する世界をこの世に顕してくれる最大の仲間でもある。

 

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