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「松本明慶先生との出会い」

 

大仏師「松本明慶」という名を知ったのは「偶然」のいたずらがきっかけだ。しかしわたしはこの偶然を「必然」と呼んでいる。

日曜日の午後の私の小さな悦びはNHK教育テレビで「囲碁の時間」の対局を見ることだ。2008年春、対局が決着した瞬間を見届けて昼食の用意を始めてまもなく、普段は消してしまう次の番組「こころの時間」に出演されていた松本明慶氏、そして氏が彫った仏像が目に飛び込んできた。

恥ずかしながら、仏師という職業はお寺が次々と建立されていた過去の時代のもので、現在においても、そういう職業の方が存在し、活躍していることなど私は知らなかった。しかしそこには今まさに活躍する大仏師の姿があった。工房で弟子と共に造り上げる何メートルもの高さがある十一面千手観音菩薩を見ながら私はテレビに釘付けになってしまった。氏の彫られた仏像は、どれも作者の気持ちや念のようなものが一切見られず、凛々しく美しく、堂々とした存在感が圧倒的で、私の中では仏のあるべきお姿であり、生きておられるように見えた。「木の中に仏が見える」という氏の言葉が容易に理解できる。

その時の感動は、尋常なものでなく、すぐにもっと氏のことを知りたいという欲求が起こり、インターネットを通して情報を収集し近所の本屋に頼んで氏の作品集「慈」を取り寄せてもらい購入した。その後幸運にも京都の工房を訪ね、お話をさせていただく機会に恵まれた。氏の眼光は鋭くもあり、しかし慈愛に満ち、その気さくな態度や人となりにすっかり初対面であることを忘れてしまった。

初めてお会いする前からもうすでに自分の中で決めていたことがあった。それは09年6月5日にキエフ国立フィルハーモニーによって初演される私のオーケストラ作品には、どのような形であれ、先生の仏像がインスピレーションの源になるであろうということだった。

つい先日、再び先生のところに伺った折、松本明慶美術館も訪れた。実際に仏像を間近に何体も、しかも様々な角度から拝見し、知的で力強く、さらに均整のとれたお姿から放たれている、強くて高次なエネルギーを体感した。

先生は「慈」の中に次のような言葉を書かれている。「私は、みほとけを?刻することによってのみ生かされている。」人間を超えた大きな精神性に感銘せずにはいられない。できうるならば、私もそのような音楽作品を生み出していきたいと思っている。

 

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