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「アリス=紗良・オット」

 

昨年以来、私はイメージが湧くと、それを直感的に感じ取って、どんな楽器のために書きたいのか、誰に演奏してもらいたいかなどを考え、それを信用できるO氏(いずれこのO氏について書こうと思う)の前では積極的に口にするように心がけている。そうすることで不可能かもしれないことが実現するような気になるからだ。

2007年11月に若くて才能にあふれるアリス=紗良・オットというピアニストをO氏に紹介された。もうすでに彼女の存在はO氏から聞いて知っていた。話をするその数日前、サントリーホールでラフマニノフのピアノコンチェルト第2番を、キエフ国立フィルハーモニーとの共演で聴いた。その時の好演からまだ時間がさほど経っていなかったこともあり、カフェではやや興奮気味にその演奏の印象を語るところから始まったような思い出がある。時折頷きながら真剣に話を続ける彼女の態度には、若い成功者によくあるおごりなどみじんもみられず、澄んだ奇麗な瞳が若さを象徴し、好印象を持った。

それ以前に、わたしはO氏にアリスのためにピアノ曲を書こうと思う、と言ったことがある。「IZUMIという作品なんですよ。」O氏は「ほーっ」と興味深げに私の話に頷いていた。

2008年5月、O氏の計らいにより再び京都でアリスに会うことになった。次の日にリサイタルという、落ち着かない時期だったにも関わらず、リラックスした様子でいろいろと演奏会や将来のことなどについて話を聞かせてくれた。

アリスと話していると、若いのに自分をよく知っていて、演奏したい作品もどのように演奏したいのかもはっきりとしたビジョンを持っているように思う。その反面、素顔の彼女はあどけなさがまだ残る弱冠二十歳の女の子で、少女が見せるような屈託のない笑顔が美しい。

そんな彼女に対して、私はあるイメージを持っていた。あふれ出るエネルギーが常に上昇するイメージだ。分厚い石でできた重石が泉をせき止めている。それが何人もの手を借りて少しずつ動かされ、落とされると、すさまじい音をたてて、止めどなく沸き出でる泉。そんな激しくもカラフルな泉。常にほとばしり続けるエネルギー。それがアリスのイメージだ。この日京都でそれを再確認した。

次の日の夜、O氏からリサイタルから今京都に戻ってきた旨の連絡があった。「アリスが話したいことがある」というのでロビーに降りていくと、そこで嬉しいニュースを聞くこととなった。アリス、モナ姉妹と世界的打楽器奏者、ペーター・ザードロのために曲を書いてほしいというものだった。バルトークの「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」を思い出す。もしかしたら来年初演されるこの委嘱作品、題名は「泉」に関連したものになるのか。それはまだわからない。いずれにせよ、いつか近い将来、この2曲がアリスによってどこかの演奏会場で生を与えられるその時を今から楽しみにしている。

 

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